甲斐の富士に「農おとこ」現る!
こんにちは。きょうは暑くなりましたね。
南アルプス市から見える富士山の雪がどんどんと溶けてきています。
この時期になると、私は、毎日、ある男が現れるのをいまかいまかと待ちわびるのです。その男は「甲斐の農男」と呼ばれ、富士山の雪形として現れます。
甲府盆地から見える雪形にこの「農男(のうおとこ)」が出現すると、人々は田植えを始めたと伝えられています。
今朝(令和2年5月11日の朝)、私は確認できました!
←2020年5月11日午前9時頃、八田ハッピーパークから撮影の「甲斐の農男」
雪が解けた黒い部分の形が農具を持った人の形に見えます。 ここ数年は男の足の部分の雪が先に溶けてしまっていて、足が確認できない状態が続いています。今年は股上から見えます。
←さて、富士山の雪形に「農男」を探してみよう!超難問ですね。
2018年は上半身しか見ることができませんでした。
←2018年4月26日、八田ハッピーパークから撮影の「甲斐の農男」
←足がないけどわかるかしら? 判りにくいですね。
こちらの平成13年の画像(写真集「夢白根百年の回想」より)には、ばっちり足先まで見えていたのですけれどね。
←平成13年(2001年)の「甲斐の農男」(写真集「夢白根百年の回想」より)
←赤丸の中に、左手に鍬を持って、傘をかぶった男が見える!と思う。
この富士山の雪形に見える「甲斐の農男」の伝承についての最も古い手がかりは、現南アルプス市若草地区藤田に住んだ江戸時代の俳人、五味可都里(ごみかつり)が天明八年(1788)の五月に編んだ俳句選集「農おとこ」にみることができます。
その中に「のうおとこのことば」という題の文章があり、その伝承を説明しています。
ここで、五味家蔵の五味可都里・蟹守資料集である『可都里と蟹守』池原錬昌編を読んでみると、
『俳諧農男集 のうおとこのことば
天の原不尽の高嶺しいつはあれど、田長鳥の声まち、麦かり初る頃ほひしも、
そがひの雪のむら消のこりたるくまびに、ひさかたの天のたくみのおのづからなる人がたの、
さすがにかしらには、小笠と見ゆるものなんうちかゝぶり、真手には鍬やうのものとりもたらむさま、ほのかに顕はるゝなりけり。
其あらはるゝときぞ、田をうゝるにときをうるとて、それを此さとらのならはせに、農男となん、いとふるきよぞいひ継もてはやしける。
実やとよどしのみつぎもの。望月のたらばひゆかんさいつ祥をしもこの高嶺のみゆきにたぐひ、称へいふ事にかはあるにこそありけめ。
(『可都里と蟹守』五味家蔵 五味可都里・蟹守資料集 編者/池原錬昌 発行/2004年 発行者/五味秀子より)』とあります。
「麦を刈りはじめるころに、富士山の雪形に、頭に笠をかぶって手に鍬をもった人が現れると、田植えをするのが習わしなので、この里の人々は「農男」と呼んで伝承している」といったような内容です。五味可都里は若草地区藤田に住んでいましたから、「この里の人々」というのは、江戸時代に現在の南アルプス市域に生きていた、私たちのご先祖様たちということになります。
その後、葛飾北斎が天保六年(1835)頃の作とされる富嶽百景三編に、「甲斐の不二 濃男」という作品を遺しています。
←葛飾北斎 富嶽百景三編「甲斐の不二 濃男」(国立国会図書館デジタルアーカイブより)
私は、ここに描かれた農(濃)男の形が、180年以上を経た、現南アルプス市内からこの時期に富士の山肌に見ることのできる農男の姿と同じであることに、感動しています。
北斎の作品の題材となった魅力的な「甲斐の農男」の伝承が、俳人として江戸でも知られたという、若草地区藤田(とうだ)の五味可都里の功績であったのなら、とてもおもしろいのですけれど・・・。
現在の南アルプス市域では、残念ながらこの「甲斐の農男」のことを知る人は少ないです。
五味可都里が書き記し、北斎の浮世絵の題材にもなった、春に富士山に見える農男。年に一度、江戸時代から変わらぬ姿で、現在の私たちにも、富士の山肌に、期間限定で見せてくれています。
〇博調査員はここ数年、この「甲斐の農男」の姿を、南アルプス市の誇る絶景のひとつ「中野の棚田」越しの富士に見たいと願っています。
←2018年5月6日、櫛形地区中野の棚田越しに撮影の富士山(甲斐の農男は見えない)来年こそ、この場所から「甲斐の農男」拝みたい!
しかし、去年も今年もうまくいきませんでした。
「甲斐の農男」と「中野の棚田」のコラボを来年こそは!と周囲の人々に喧伝する今日この頃です。
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