徳島堰のツケエバタとポンプ池
こんにちは。 令和2年7月17日から開催中の南アルプス市ふるさと文化伝承館テーマ展「開削350年ー徳島堰」に関連して、
「徳島堰と水辺の暮らし編」をお伝えします。
徳島堰が御勅使川の下をくぐる前の上流域(韮崎市内部分)には、堰の水を生活に利用するための「ツケエバタ(使い端・洗場)」を設けている場所が多く見られます。
←ツケエバタは、家の敷地から階段で堰の水面に降りられるようになっているような個人のお宅専用のものもあれば、公民館の脇や堰と交差する道沿いなどに階段を付設して集落共同で使うものの2種類あります。農機具を洗う他、洗濯や風呂の水を汲むために利用されました。
しかし、水量の多い4月から9月頃までは流されないように注意をしなくてはならないので、堰路内の水を多用するのは釜無川からの取水が行われない農閑期で、堰に流れ込んだ山からの沢水で、米を研いだり、野菜を洗ったりしたそうです。
そのほかの堰の水利用の実態として、来館者の方に教えていただいたのですが、韮崎市内では、堰下に、堰の水を引き入れる「ポンプ池」とよばれる防火水槽がつくられている場所がいくつかあり、普段はそのポンプ池の水で養蚕道具を洗ったり、菜洗いをしたそうです。
また、子供たちは冬に凍ったポンプ池で下駄スケートを愉しんだそうですよ。
田植え前の春先には、年に一度のポンプ池の水を抜いての大掃除が行われて、大きな魚をつかみ取りしたこともあったそうです。
←下駄スケート(南アルプス市文化財課蔵):下駄に刃を取り付けたスケート用のはきもので、昭和30年代中頃まで使用された。
徳島堰やポンプ池が冬に結氷すると、スケート遊びが楽しみだった。
明治39年に長野県下諏訪町の飾り職人河西準乃助が「カネヤマ式下駄スケート」として売り出したのがはじまり。
今回のテーマ展の準備調査では、韮崎市山寺の徳島堰沿いに住み、家の前にツケエバタのある山本さんにもお話をうかがっています。
山本さんには、子供のころ、徳島堰で遊んだ思い出を語っていただきました。夏は水泳、冬はスケートを楽しんだそうです。
『夏はツケエバタを降りていって、男の子は皆フリチンで泳いだね。下流の石積みの掴まるのにちょうどいい石があるところまで流れに乗って泳いでいって、堰から上がってはまた上流から飛び込んだ。結構流れが速いから面白れぇだ。だけど、韮崎の水泳大会ではじめてここら辺の子供がプールで泳いだ時は、みんな、いっさら前に進まんくてびっくりしただぁ。その時初めて、堰では泳ぐふりはしてただけど、泳いでたじゃぁなくて、流れに乗っかっていただけだっちゅうこんを思い知っただよ。
冬は凍った堰でスケートをしただ。下駄に刃の付いた下駄スケートを履いて、脱げんように足首にも紐で縛り付けるだ。下駄スケートは韮崎の街のムラタ屋さんというはきものやで買ってもらっただ。』
今回のテーマ展の開催を前に、南アルプス市文化財課の職員は、韮崎市の文化財担当の方々と協同で徳島堰全長17キロを二日間かけて踏査しました。韮崎市側を踏査したのは、ちょうど田植え時期の6月でしたので、堰をドコドコと大量の水が流れており、たいへんな迫力がありました。
そして、そんな堰沿いをずっと歩くと、たくさんの様々な形式のツケエバタがあり、流れに直行する階段もあれば、並行しているものもあって面白かったです。
流れに並行する階段の場合、ほとんどは下流に向かうように備え付けられていますが、中には、上流から流れてくる水に向かって階段を降りていくものもあり、ツケエバタに注目して形式分類しながら徳島堰を歩いてみるのもきっと楽しいだろうなと思いました。
そして、疲れたら、堰下にあるポンプ池で涼しげに泳ぐ赤い金魚や鯉を見ながら一休みするのも気持ちがよいと思います。
今年は観光に出かけられない日々が続いていますけれども、身近な場所(例えば、もちろん?徳島堰!)に出かけていき、いつもは見過ごしてしまうような何気ない風景をじっくりと観察したり、自分のペースで歩きながら先人の偉業や歴史をしみじみと感じてみるのも、これまた、よいお盆の過ごし方なのでは?と提案します。
← 使用しなくなったツケエバタが塀で仕切られてしまった例。
さらに、徳島堰を散歩する前に、南アルプス市ふるさと文化伝承館へ「開削350年 徳島堰」展を観に来ていただけたなら、もっともっと「徳島堰あるき」が楽しくなること間違いなしですよ!
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