にしごおり 『おかぶと』の世界
お久しぶりです。こんにちは!
南アルプス市ふるさと文化伝承館1階では、現在、令和3年度第1回コーナー展「にしごおり『おかぶと』の世界」が開催中です。
江戸時代後期から明治時代にかけて甲州のみで独自創作され、流行していた端午の節句人形「おかぶと」を、近年の〇博収蔵資料より9点公開しております。
元々、旧暦で行われていた端午の節句は、梅雨のじめじめとした季節の行事でした。そのため、厄病除けの鐘馗様や鮮やかな色彩の掛け軸飾り、巨大なこいのぼりや武者幟を飾り、邪気を払いました。
今年2021年は6月14日が、旧暦でいう五月五日だそうです。
季節柄だけでなく、いろいろとスッキリしない昨今の情勢の中、来館者皆様のお気持ちがすこしでも晴れ晴れしたものとなるよう祈念し、「おかぶと」とあわせてダイナミックに展示してみました。
「おかぶと(別名かなかんぶつ)」は、山梨独自の端午の節句人形で、江戸後期から明治中期に甲州の家々で、盛んに飾られました。
この独特の節句人形は、甲府の雛問屋が作り、売子が「かぶとー、かぶとー」と、天秤棒で担いで売り歩いたそうで、これを買い求めた親戚などから初節句祝いの品として届くと、外から見えやすい縁側などに飾りました。
当館所蔵の「おかぶと」には、紙製の張り子のお面に厚紙でできたよろいのような垂れが紐でつながれているものがみられますが、実は、いくつかの部品が欠落しています。
おかぶとには、お面の上に、前立(まえだち)という紙製の飾りが付いているのが、販売された当時の姿です。前立は、将棋の王将の駒の両脇に、兜につくような鍬形が添えられた頭飾りです。
おかぶとはこの前立・紙製の張り子の面・垂れのセットを木の棒で支えて立てる飾り物なのです。
南アルプス市内では、櫛形地区桃園の個人宅に、明治期に購入された信玄公のおかぶとが一体、この前立と垂れが付いた完全な状態で保管されていることを〇博調査で発見確認しています。
「おかぶと」は「かなかんぶつ」? ー呼び名のあれこれー
「おかぶと」は別名「かなかんぶつ」とも呼ばれます。現在、土産物の民芸品として販売されているものには「かなかんぶつ」という名称が多く用いられています。
明治初めの甲州の習俗をひろく書き留めた山中共古の著作「甲斐の落葉」においても「五月五日幟鯉ヲ立ルコト東京ト替リナシカナカンブツト称スル兜人形ハ他国ニ見ザルモノニテ・・・」と紹介されおり、その他の書物にも「かなかんぶつ」の名称が多く用いられてきました。
しかし一方で、上野晴朗※の調査により、「おかぶと」という呼び名が、製作する職人や売子の掛け声で用いられてきたことが取材されており、甲州庶民においてより身近な名称として 浸透していたと考えられます。
※上野晴朗「やまなしの民俗―祭りと芸能―上巻」1973 株式会社光風社書店
代表格の武田信玄だけでなく、大きさも様々な「おかぶと」には、さまざまなモチーフがあります。
どの人物か特定はできませんが、信玄ではない武将以外にも、天狗や役者など、バラエティーに富んだお面の種類がみられます。
昭和48年に発行された上野晴朗「やまなしの民俗」によると、他に、「源氏の大将たち」「武田勝頼」「上杉謙信」「豊臣秀吉」の他、中国の歴史上の人物などのモチーフもありました。 しかし、明治25、6年頃から流行らなくなり、明治35、6年頃にはまったく売れなくなり製作されなくなったと記されています。
← 明治時代に縁側に飾られていたおかぶとの姿を再現すべく、伝承館スタッフが参考品を作成している様子。左の画像は、実物資料と参考品を交互に並べたところ。
垂れの紐の通し方も実物資料をじっくり観察して再現しています。こいのぼりの下に展示のおかぶとの参考品は是非とも近づいてじっくりご覧くださいませ。
参考品を除く今回のコーナー展の展示資料は、〇博で資料整理を進めている、南アルプス市文化財課の五千点を超える収蔵資料の中から選抜しました。
「おかぶと」の他に、鮮やかな彩色の端午の節句の掛け軸飾りや昭和期の巨大な木綿製の「こいのぼり」と「武者幟」を配すことができ、時代観を表現できたのではないかと思います。
昭和初期以前の時代を私たちがイメージする時には、どうしても古写真のセピア色を思い浮かべてしまうのですが、実際の資料を観れば、そのイメージはかなり違ったものになるのではないでしょうか。
観覧されたお客様には、どうか少しの間でも、晴れ晴れとした気持ちになっていただきたいです。
どうぞ、甲斐独特の端午の節句飾り、とりわけ、〇博で調査収蔵した、にしごおり(西郡)のおかぶとの世界をご堪能ください。
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