マスクメロン協会費領収書
こんにちは。←こちらは、昭和8年のマスクメロン協会の会員費領収書です。
南アルプス市にメロン栽培を大正14年に導入した白根地区西野の功刀家の資料の中にありました。
この領収書からは、功刀家は昭和8年にマスクメロン協会に入会し、年会費と併せて4円50銭支払ったことがわかります。
その他、マスクメロン協会が『東京府荏原郡荏原町下蛇窪三○一 戸越農園内」に置かれているとありますが、これを現在の地名でいうと、東京都品川区にある戸越公園近隣になるようです。
戸越公園は江戸時代には熊本細川家の戸越屋敷があった場所でしたが、その後、松平家等の所有を経て、明治23年からは三井家(三井財閥)が所有者となっていました。マスクメロン協会の置かれた戸越農園は、三井邸の中の農園部分だったもようです。このような戸越農園の経緯をみると、領収書に『松平』の押印があるのも、三井家の前の土地所有者と何らかの関係があるようにも思えます。
さらに調べると、マスクメロン協会は昭和13年に「マスクメロン」という協会誌を発行していることが判りました。国立国会図書館デジタルコレクションにあるようですが、残念ながら目次のみの開示で、内容のインターネット公開はまだされていません。目次を見る限り功刀家は寄稿していませんが、日本での初期のマスクメロン栽培と販売の様相すべてが掴めそうなラインナップなので、疫病流行の終息後に国会図書館に出かけられる日を愉しみに待ちたいと思います。
←大正15年頃に功刀七内氏が硝子温室内でのメロン栽培の様子を写した写真(南アルプス市文化財課蔵・西野功刀幹弘家資料より)
さてここで、マスクメロンとは何ぞやというところを調べてましょうか?、
現在、マスクメロンと称される果皮に網目状の模様のできる球体のメロンは、主に「アールスフェボリット」という品種のことを差します。
静岡県のHP等によると、大正14年に種子をイギリスから日本に導入したものであって、現在もこのアールスフェボリット種を生産しているのは日本だけらしいです。しかも、現在でもマスクメロンの栽培はビニールハウスではなく、大正時代以来ずっと、太陽光の透過率の高いガラス温室で行われています。
〇博のいままでの調査によると、功刀家では、領収書に名のある七朗氏の弟である七内氏が、大正13年初秋に愛知県の清州試験場へ温室栽培の研修へ出向き、大正13~14年にかけての冬期に硝子温室を完成させました。
そして、大正14年の春から温室葡萄の苗を植え、そのぶどう苗の間に置いたサンマ樽の中でメロン苗を栽培しはじめたことが判っています。
したがって、日本のマスクメロン設備の建設と栽培導入としては、静岡県とならんで、山梨県南アルプス市もほぼ嚆矢となると考えられます。
←昭和初期の功刀家ガラス温室(南アルプス市文化財課蔵・西野功刀幹弘家資料より)
←メロン出荷全盛期の昭和初期の西野村役場前(南アルプス市文化財課蔵・西野功刀幹弘家資料より)
しかしながら、南アルプス市のマスクメロン栽培は、昭和16年をピークとして、戦時下で栽培できなくなったのを機に縮小する一方でした。現在は、スモモやサクランボ、モモ、ブドウの栽培にシフトしています。
一方、静岡県では、「日本マスクメロン栽培」という、我が国固有の農業遺産を、大正14年から脈々と繋げているわけですから、現在で丸95年、もうすぐ日本マスクメロン栽培発祥100年を迎えられるなんて、正直、うらやましいですね。
←甲府の中村果実店とのメロンの取引に関する書簡(南アルプス市文化財課蔵・西野功刀幹弘家資料より)
明治20年代から現在に至るまでに、日本の名だたる果樹王国の一つに成長した南アルプス市で、 大正14年にはじまり、かつて盛んに行われた「温室マスクメロン栽培」。
南アルプス市は日本のマスクメロン栽培発祥の地の一つであるという、歴史的評価をきちんと行うことで、再び市内甲西地区で行われているというメロン栽培を応援したいと、心密かに思っている〇博調査員です。
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