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2021年10月 1日 (金)

明治20年の初産見舞帳2(初節句の祝宴編)

こんにちは。
 本日も西野功刀幹浩家資料より、明治20年3月の初産見舞帳のご紹介です。

A_20211001160501(南アルプス市文化財課所蔵・西野功刀幹浩家資料より)
 明治20年3月に初めての出産をした功刀安市の妻ひらへ、同じ西野村に住む実家小野家より多数の着物が届き、親類や近所からは、反物や祝金の他に氷豆腐、米、素麺などを祝いとして受け取ったことが記されている箇所を前回みていただきました。
 今回は、その続きで、長女誕生に関する祝宴で用意された料理の材料や引き出物の目録と、祝宴に招かれた人々が持参したと思われる祝品の書上げ箇所を読んでいきたいと思います。

A_20211001160401(※タップすると画像が拡大します)

『一 上條 白米四俵ト 四升
  代金拾一圓也
 一 金四円〇五銭  ます 五拾五本
 一 金弐円弐拾銭 塩さば 五拾本
 一 金壹円〇五銭 黒鯛 三拾本
 一 金六拾六銭 此しろ 五拾本        
 一 金五拾銭 昆布巻 弐十五本
 一 金四拾銭 多こ
 一 金弐円三拾五銭 生肴 三貫目
 一 金四拾銭 釜ぼこ 大四丁
 一 金弐拾五銭 煎り肴
 一 金六拾銭 久年母 壱函            ※久年母:くねんぼ、みかんのこと
 一 金三拾五銭 蓮根ん              ※蓮根ん:れんこん
 一 金四拾五銭 芋 五升
 一 金壹円五十銭 城砂糖   □□         ※城砂糖:白砂糖

 一 金九円也  外□□ 乾物 その他小物
 一 金八拾銭  饅頭 大三十 中七十 小七十
 一 金弐拾五銭 手塩皿弐拾枚 徳利壱本
 一 金弐円七拾八銭 酒弐俵半
 一 金壹円也 □□□
    〆金九拾九円五拾銭
    外白米弐斗
    外畑粉等弐斗               』

  この頁では、見開きで初産祝いの祝宴のために功刀家が準備した食材や引き出物の代金と品目が書き上げられています。
祝宴の開かれた日が表紙に記されている3月21日であったかどうかは不明ですが、子供が生まれて1週間過ぎたあたりに親類や近所をよんで行う「お七夜」が行われたことがわかります。この書上は、その際のおもてなし料理の食材調達に関わるものでしょう。
それぞれの購入金額もわかりますので、明治20年3月当時の物価も知ることができて興味深いです。

 マス、塩サバ、クロダイ、コノシロといった海産物がすごく大量に準備されていることに驚きますね!甲府の魚問屋から購入したのでしょうか?
 また、引き出物と思われる饅頭も大中小と沢山購入しており、この初産祝いの席がたいへん豪華なものであったことが想像できます。 
 お酒も2俵もあります。量の単位が不明確ですが、仮に1俵を1樽=1斗と読みかえると、36ℓ=一升瓶で20本分が用意されたことになり、招待者21人に対して相当な多量の酒が振る舞われたのではないでしょうか?

A_20211001161101(※タップすると画像が拡大します)

『 雛
 一 古親王 壱組 小野要三郎
 一 金弐円也  仝人
 一 金弐拾銭 芦沢正敬
 一 金拾銭 中込九兵衛
 一 雛 壹組  中込豊松
 一 同断  中込清左衛門
 一 同断  功刀庄左衛門
 一 同断  功刀政造
 一 同断  功刀徳右衛門
 一 同断  功刀太郎兵衛
 一 金五銭六厘 功刀七□□
 一 金八銭 功刀六右衛門
 一 金五銭六厘 功刀清右衛門
 一 金八銭 功刀萬吉
 一 金四銭 鶴田要松
 一 金五銭六厘 功刀秋太郎

 一 金六銭四厘 相川利太郎
 一 金四銭 相川兼十郎
 一 金四銭 相川平重郎
 一 金六銭四厘 功刀半次郎
 一 金八銭一厘 功刀良五郎
  〆金九圓也             』

 つづいての頁は、祝宴の招待客が持参した祝い品のリストです。
ここでの注目点は、祝い品として、7人が雛人形を贈っていることです。ここで、生まれた子供が女の子であったことが確定でき、ちょうど三月であったので、初産の祝宴が初節句の祝意も兼ねたことが判ります。

 さらに、表記の仕方の違いから、雛人形の種類に、「古親王」とそれ以外の「雛」があったことが判ります。〇博調査員は、この「雛」と書かれた人形は、当時甲府の雛問屋で数多く作られ、甲府盆地周辺で親しまれた節句人形である「横沢びな」であると確信しています。「横沢びな」は、雛段の最上段に飾られる男女一対の「古親王」に比べて安価で、初節句に親戚や近所からいろいろなモチーフのものが多数贈られました。
 さらに、祝金と雛人形の書上げられた順序からして、明治20年当時は、だいたい、親王飾り1組が2円くらい、横沢びなの類が安いもので10銭ほどで購入できたのではないかということが推測できます!
前頁の祝宴食材の値段をみると、静岡方面から富士川舟運でやってくる久年母(みかん)が1箱で60銭とありますので、比べてみるのも面白いですね。

 では、毎年2月から行われる、南アルプス市西南湖にある重要文化財安藤家住宅での雛人形の展示にいつも登場している「古親王」と「横沢びな」の画像をご覧ください。
Dsc_1806-2 ← 「古親王」とよばれる雛だと考えられるもの。(南アルプス市文化財課所蔵)
Dsc_0303_20211001160301 ←「雛」と記されたと考えられる、明治期に甲州で数多く飾られた「横沢びな」(南アルプス市文化財課所蔵)


  明治20年の初産見舞帳を読んでいたら、毎年の展示作業で親しんでいる「横沢びな」がだいたい1組10銭ほどで売られていたことが判り、たいへんうれしかった〇博調査員です。

この情報は、 来年春からの安藤家ひなまつりでの展示に、さっそく生かしていきたいと思います。

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