夜なべ仕事は 行灯消すまで・・・
こんにちは。
現在展示中の藍と綿のテーマ展では、〇博調査員の想像した設定で、明治23年の暮れも押し迫った頃の、にしごおりの、ごく普通の家の座敷を再現したコーナーをつくりました。
←テーマ展「藍と綿が奏でる にしごおりの暮らし」展示より、『夜なべ仕事は 行灯消すまで・・・』のコーナー
そこで、夜なべ仕事で糸車を回して綿から糸を紡ぐ母ちゃんと向かい合わせに座り、子供を寝かしつけている父ちゃんに甲西地区鮎沢に昭和40年代終わりまで操業していた磯部製糸所の法被を着せています。
←生糸商標 : 明治時代を生きた父ちゃんの法被に磯部製糸所の文字があるが、実際には、磯部製糸所は昭和30年代初めから40年代終わりにかけて甲西地区鮎沢で操業していた。
実は磯部製糸所は明治23年にはまだ存在しなかった製糸所なのですが、設定として、明治20年頃になると、若草地区や甲西地区をはじめ、白根地区にもどんどん、絹の糸をつくる製糸工場が稼働し始めた時期なので、父ちゃんは昼間に働いている製糸場から帰ってきて夕御飯を食べた後、お酒を飲みながら子供を寝かしつけてもらいました。
←父ちゃんが飲んでいる酒は、甲西地区荊沢の市川家が製造していた「和不二」という銘柄をご用意しました。
その向かいに、糸車をはさんで向かい合って座る母ちゃんは、家族のために木綿から糸を作る夜なべ仕事をしているという場面設定です。
温かい父ちゃんの懐に抱かれて、ビーンビーンと母ちゃんが糸車を回す音を子守歌に、そろそろ、子ども(ぼこ)の寝息も聞こえてきそうです。若い家族のささやかな一家団らんの場面をつくってみました。 ←母ちゃんが糸を紡いでる横で、父ちゃんが坊を寝かしつけている。
この座敷の明治23年の家族団らん設定シーンには、文章の得意なスタッフのNさんに、題名と場面説明できるようなポエムを作成してもらい、添えています。
「夜なべ仕事は 行灯消すまで・・・」(by 野呂瀬)
ービーン、ビーン、ビーン、ヤー
糸車が奏でるこの調子が、わが家の団欒の合図。
坊は父ちゃんにお任せして、今夜も糸を紡ぎます。
師走となれば息巻いて、町内札付き「のんべえの安」がやってくる。
とぼけた顔で赤紙を待つ父ちゃんは、返事もそわそわ気もそぞろ。
仕事納めで飲みに出たいのは知ってるけれど、今夜も“夜なべ”仕事の道づれです。
くるくる移ろう世の中で“おとこし”仕事もせわしく様変わり。
くるくる回る糸車“おんなし”仕事は毎日同じことの繰り返し。
明日はどうなるかなんてわからないから。
だから行灯を消すまでのひと時を、なんでもない、他愛ないこのわが家の“夜なべ”を
しっかりと紡いでいたいのです。
ービーン、ビーン、ビーン、ヤー
きちんと乱れぬその音に、散切り頭の坊もすっかりおやすみ。
父ちゃんすっかり動けずに、今はわたしがひとり占め。
よそのことはおいといて、もう少しだけいまのままでいさせてください。
「行灯消やせ、鍵よかけろ」
うとうと父ちゃん、とうとう諦めて、今日を仕舞いにかかります。
今日もおかげで何事もなく、明日もどうか何事もなく。
母ちゃんは変わらず乱れずに、毎日くるくるはたらきます。
この“夜なべ”仕事を楽しみに。
明治二十三年寅十二月二十七日 小夜
このポエムに出てくる「のんべえ安」は、にしごおりに伝わる「糸つむぎ唄」に出てくる「西村の安さ」をイメージしています。それでは、次にそのにしごおりの「糸つむぎ唄」の歌詞をみてください。
←糸車の脇に、にしごおりに伝わる「糸つむぎ唄」のパネルを置いています。
「糸つむぎ唄」 (甲西町誌より)
ナンダナンダナンダ
心は小夜の中山のエー 飴の餅売るよな殿に添いたい 殿さ添いたい
ナンダナンダナンダ
行灯消やせ鍵よかけろ 西村の安さの唄の声する
ナンダナンダナンダ
曲輪田宮地ゃ嫁にゃいや 高尾山 麓でどこがよからず どこがよからず
ナンダナンダナンダ
酔っぱらった安が、飲み友達を探しに家に押しかけてこられては、坊は起きて泣き出すし、夜なべの邪魔だし、家族団らんが台無しなので、声がしたら急いで「行灯消やせ、鍵よかけろよ」というわけです。
この座敷コーナーは、展示解説スタッフにお声を掛けていただければ、糸車を回す母ちゃん役になって写真を撮影することも可能ですよ。 どうぞあなたも、明治時代のにしごおり人になりきって、「夜なべ仕事は 行灯消すまで・・・」の世界に入り込んでみてください。
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