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2022年1月20日 (木)

「縞見本帳」からきこえた藍と綿のうた

こんにちは。
きょうは、現在、南アルプス市ふるさと文化伝承館1階で開催中のテーマ展「藍と綿が奏でる にしごおりの暮らし」で展示中の資料から、「縞見本帳(しまみほんちょう)」をご紹介したいと思います。
 ところで、〇博調査員はフィールドワークもよく行っていますが、調査の時間の大半は、収蔵した文献や民具、オーラルヒストリー等の資料化や分析に費やしています。そして、その過程で新たに発見したり、価値づけができた資料や文化を、企画展を開催するなどの作業を通して皆様にご覧いただくという仕事をしています。
 そんなある時、収蔵庫の台帳整理をしていてその存在を認識し、いつかこれを市民の皆様に見ていただく機会を持ちたいなあと思っていた資料がありました。その一つが、この「縞見本帳」です。

Photo_20220120105501 3_20220120105501 2_20220120105501 4_20220120105501←「縞見本帳(甲西地区宮沢青沼家)」南アルプス市文化財課蔵 

 縞見本帳とは、縞織物の端切れを貼った帳面です。女たちが家族用に作る手織りには、縞の太さや配色の組み合わせにより無数のデザインが可能であるため、着る人の性別・年齢・着用場面に合わせて、様々な縞柄が各家で生みだされました。織った縞は、反故紙を綴じた帳面に貼って見本帳として、次に織る時の覚えにしました。また、良い縞を織った人の縞見本帳は貸し出されたりもしたそうです。

Photo_20220120105401 3_20220120105401 4_20220120105401 5_20220120105401 6_20220120105401 7_20220120105401 ←「縞見本帳「諸縞之本」(甲西地区川上浅野家・明治30年)3月」南アルプス市文化財課所蔵

 収蔵庫の一番奥の棚に、機織り道具一括として木箱の中に納められた中から、この丸まった帳面をはじめて手に取って表面の埃をそっと払った時のことを、いまでもはっきりと憶えています。そして、この縞見本帳のページをめくった瞬間、耳にたくさんの音が急に流れ込んできて、頬に明治時代の家の中の空気の冷たさまで感じたような気がしました。

 日々の暮らしにかかるお金を書き留めた忙しそうな字の上に、軽やかな縞の端切れが点々と、しかし何かしら秩序だって貼られているのは、まるで楽譜のようです。頁によっては、びっしりと布の音符が貼り込まれているのもあって、明治の女たちの生活がこの縞見本帳に奏でた詩(うた)のバリエーションの豊富さを物語ります。
 綿を作って紡いで、紺屋さんに染めてもらった糸を、機織りして布にして、仕立てて着物にする。そんな、いまの私たちには気の遠くなるほど凄いことを、数ある家事の一つとして普通にこなしていた昔の女たち。彼女らの聡明さと、縞の柄を集めて愉しむかわいらしさの両方が存分に表現されている縞見本帳は、非常な感動を私に与えてくれた資料です。 

Photo_20220120105405 Photo_20220120105404 Photo_20220120105403 Photo_20220120105402  ←「縞見本帳(甲西地区川上浅野家・明治30年)」南アルプス市文化財課所蔵  縞見本帳として使われる前は、金銭出納帳だったので、買った品物と金額が書かれてある。
 また、〇博調査的には、布の下にある明治30年頃の金銭出納の記録もたいへん興味深いものでした。こちらの縞見本帳は甲西地区川上の浅野家から寄贈されたものでしたので、藍屋さんらしく、藍玉五俵とか営業税などの家業にかかわる出金の記録も書かれていましたし、「チリメンボシ」や「酒」「ソウメン」などの食品購入の記載や、「糸ホカシチン」「糸取リチン」「紺屋ソメチン」など、機織りする前段階の部分を外注した際の金額も書かれていてとても参考になります。
Dsc_0369_20220120105501 Dsc_0370_20220120105501 どうぞ、みなさんも実物をご覧になりにいらしてください。皆様にも、縞見本帳から明治の女たちの生活を感覚的に味わっていただけたならうれしいです。

← 南アルプス市ふるさと文化伝承館テーマ展「藍と綿が奏でる にしごおりの暮らし」令和4年1月14日~5月29日まで開催より、縞見本帳の展示状況(令和4年1月20日撮影)  複製もあるので、中身を手に取って観ることができますよ!


そしてもし、ご覧になったあなたにも、縞見本帳から詩(うた)や音楽が聞こえてきたのなら、是非とも〇博調査員にどんなふうな音調であったかおしえてくださいな。あなたとは気が合いそうですね。

 

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