夏りんごの人工着色していた頃
こんにちは。
きょうは、昭和40年代までは、市内白根地区の果樹地帯でも多く出荷されていた、「りんご」について、書き留めておきたいと思います。
←「りんごの人工着色」の作業風景と装置(今諏訪手塚家データ資料より・昭和36年撮影)
←同じアルバムに入っていたリンゴ畑の様子。当時のホンダ・スーパーカブにまたがった少年のバックには、たわわに実ったりんご畑が広がっている。(今諏訪手塚家データ資料より・昭和36年撮影)
先日、今諏訪の手塚家に訪問調査に伺わせていただき、昭和30年代のアルバムを見せていただいた折に、以前から市内各地での調査で話には聞いていた、「夏りんごの人工着色」の様子がわかる写真をみつけました。人工着色といっても、着色料や科学的な薬品を使って赤くするわけではありません。温度と日光の加減を人為的に調節して、収穫した果実を赤く発色させていました。
←子供の遊び場にもなった「りんごの人工着色」の装置(今諏訪手塚家データ資料より・昭和36年撮影)
南アルプス市域では、危険分散思想による果樹の多種栽培が伝統的に引き継がれ、現在でも「さくらんぼ、すもも、桃、ぶどう、かき」の5種が、主要栽培品目となっています。そのような大正時代からつづく多品目栽培の歴史の中で、一時期のみで今はあまり作られなくなってしまった種目もあります。「メロンやネクタリン、キウイ」と並んで、りんごもその一つです。
りんごは、昭和40年代までは多く出荷されていました。○○博物館の取り組みによって得られた果樹栽培関係資料の中にも、当時栽培されていたりんごの品種名のスタンプや、木箱に印字するための金属製型が多数見られます。
→りんごの出荷木箱用印字型とハンコ:8月に「祝」、9月に「旭」10月に「スターキング」「ゴールデン・デリシャス」を出荷していたのでしょう。(在家塚中込家資料他)
そして、〇博調査員は、「りんごを並べて水をかけて冷やし、青いりんごを赤くして出荷した」という昭和時代の思い出話を何人もの人から聞いていました。東北や信州などの大産地よりも少しでも早く色づかせて、高値で売るための戦略だったと考えられます。「筵の上にりんごを並べて、水をかけて冷やしながら日光に当てることで、樹上になっているよりも早く、しかも均一に赤く着色させて、とにかく見た目第一で出荷した」という話もききました。
画像を提供していただいた白根地区今諏訪の手塚家のお父様にこの写真についてお尋ねすると、「砂を敷いて夏りんごを並べ、赤くして出荷していた」記憶があるとのこと。さらに、〇博調査員は、この写真に撮影月日が昭和36年8月25日と記載されていたので、並べられているりんごの品種はおそらく、「祝」か「旭」なのだと推測しています。
←「りんごの人工着色」の装置:(今諏訪手塚家データ資料より・昭和36年撮影)
この手塚家の画像を見ると、右後ろに、砂をふかふかに敷いた地面の上にりんごを並べているのが見えますね。その上には、簾を広げるための竹を組んだ装置があります。水はすぐそばにある井戸から汲んで、広げた簾の上から撒いたのでしょうか。そうすれば、りんごに直接水がかかることはなく、簾をつたってゆっくり落ちていくので、効率的にりんごの表面温度を冷やすことができたのではないでしょうか?
りんごの人工着色の手法には、まだいくつか不明な点があり、〇博調査員の推測が入っています。今後、この画像を持参して聴き込む調査で詰めていきたいと思います。 ←子供たちが座っている「りんごの人工着色」の装置:すぐそばには井戸が見える。(今諏訪手塚家データ資料より・昭和36年撮影)
ところで、この着色作業は、りんごが熟さないうちに採ってしまうせいもあって、見かけは赤くてきれいだけれども、その割にあまり美味しくないりんごだったそうですよ。 まだ残暑厳しい時期に、季節を先取りした真っ赤なりんごを市場に高値で出荷するという売り方は、やっぱり、「『にしごおり果物』の伝統的販売戦略だよね!」と納得させられます。
アルバム写真のデータをご提供くださった手塚家には訪問調査にご協力いただき、昭和30年代のりんご栽培に関して以外にも、今諏訪の御柱祭りや、甲府の松米商店で購入した横沢びなについて等、多数の資料をご提供いただきました。 今後も調べが進みましたら、順次まとめて、ご紹介していきたいと思います。手塚家の皆様には心より感謝申し上げます。
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