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2023年8月25日 (金)

奉公袋を持つ出征兵とその家族

こんにちは。
〇博調査でいままでに収蔵した資料を日々整理していていますと、昭和時代の戦争に関するモノや画像は、まとまった量で集成されていることを実感します。 70年以上も続く戦争のない日常生活を送ってきた大半の市民にとっても、戦争という人類にとって最大級にネガティブな事象の記憶を示すモノには、容易に処分できない畏怖のような感情が生じ、特別に引き継がれたものが多いからだと思います。
 今日はそのような戦争資料のひとつ、奉公袋をご紹介したいと思います。
 まずは、櫛形地区上今井で今から80年ほど前に撮影された出征の時の家族写真をご覧ください。
Jpeg
←出征記念の写真:中央の出征兵は奉公袋を抱えている。(上今井五味家資料 南アルプス市文化財課蔵)

 真ん中に写る出征する男性が大事そうに奉公袋を持っています。この袋は、中身がパンパンに詰まって膨らんでいる様子がわかりますね。
袋の中にこれからの陸軍生活で必要な荷物を全部入れて、この写真が撮影された直後に旅立っていったのでしょう。奉公袋の中に何を入れていたのか気になりますね?
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←奉公袋:陸軍の兵隊が必需品を入れていた袋。中には、軍隊手帳、召集令状、貯金通帳などが入れられた。海軍の場合は応召袋といった。(南アルプス市文化財課蔵)

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←奉公袋の裏側にあるプリント (南アルプス市文化財課蔵)

『応召ノ場合ニ携行スル品 一、軍隊手帳 勲章 徽章 適任証書 卒業証書 修行証書 印章  二、貯金通帳 三、私服結束用風呂敷及木札(住所氏名ヲ記入シタルモノ) 四、応召旅行用必要品及日用品』 在郷軍人は常にこれらを用意しておいたのだといいます。
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←収蔵資料の奉公袋の中に入れられていたもの。(南アルプス市文化財課蔵)

 住所氏名の記されたひも付きの木札は何のために入れていたのだろうかと以前から不思議に思っていたのですが、私服結束用に使用されたのですね。奉公袋裏の記載を読んでみてやっと謎が解けた〇博調査員です。

Sk0120230822_16321453 ←軍隊手帳:陸海軍の下士官・兵に公布された手帳。(南アルプス市文化財課蔵)
Sk0120230822_16300840 Sk0120230822_16291586  ←冒頭には軍人勅諭(天皇から軍人への言葉)が記され、陸軍では暗記するように言われた。(南アルプス市文化財課蔵)
Sk0120230822_16223740 ←奉公袋の中にあった『召集令状受領後入隊迄ノ日華業務予定表』(南アルプス市文化財課蔵)
 召集令状を受領した翌日には遺書まで書いて家事整理し、翌々日には出発入隊しなければならないという非常にタイトな時間割ですね。 赤紙が家に届いてから入隊するまで、こんなにも時間が無かったなんて知りませんでした。

出征壮行の家族写真には資料の訪問調査等でお目にかかることの多い〇博調査員ですが、日常生活での最低限の引継ぎ連絡だけで精一杯のような制限時間の中、急な知らせに駆け付けた家族親族たちとたいへん慌ただしい状況の中で撮影されたものだったのだと、はじめて理解できました。別れの言葉をゆっくり交わす暇などなかったでしょうに。

残念ながら、写真の出征兵についてその後の情報を得ることはできていませんが、一緒に写るご家族ともども、幸せな戦後昭和をお過ごしになっていたらいいなぁと思いました。

 

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