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2025年7月

2025年7月 8日 (火)

学校が軍の予備校になった(国民学校日誌を読む1)

こんにちは。
今日は、南アルプス市ふるさと文化伝承館令和7年度第1回テーマ展「ぼこんとうとせんそう」より学校日誌という資料をご紹介していきたいと思います。
           
 学校日誌は教師が書き記す日誌のことで、各学校で生徒や教職員の出欠状況、その日の出来事などが毎日記載されます。現在の学校においても行われています。基本的に5年間の保存期間でよいとされていますが、南アルプス市内では過去の古い日誌が断片的に遺され発見された学校がいくつかあり、通報いただいた場合それらを文化財課で収蔵しておりました。
 2025年7月現在、南アルプス市教育委員会文化財課では、五明学校、大明尋常小学校・大明尋常高等小学校・大明国民学校・大明小学校・大明農業補習学校・大明夜学会、鮎沢学校、飯野尋常高等小学校・飯野国民学校・飯野小学校・巨摩第一小学校、鏡中條国民学校の日誌を計133冊収蔵しており、その中から戦時下にあたる昭和16年から20年にかけての国民学校時代のものを、個人情報に配慮した上で現在開催中のテーマ展で展示しています。
Img_8137   ←南アルプス市ふるさと文化伝承館テーマ展「ぼこんとうとせんそう」での学校日誌展示状況
 
 国民学校時代の日誌には、学校教練や訓話の内容、空襲、疎開、学徒の勤労動員など戦時下特有の様子が記録されていますので、まずは尋常小学校・尋常高等小学校から国民学校初等科高等科に変わった時点から順にピックアップしてみていこうと思います。
 
 昭和16年4月1日より、それまで尋常小学校・高等小学校と呼ばれていた学制が変更され、国民学校初等科・高等科と呼ばれるようになりました。現在の小学校1年生から中学校2年生までの期間にあたります。国民学校に変わるにあたっては、昭和12年に発刊された「國體の本義(こくたいのほんぎ)」という書物の内容が指針となりました。
P6142744 Img_8152 ←「國體の本義」(南アルプス市教育委員会文化財課蔵):昭和12年(1937)に、「日本とはどのような国か」を明らかにするために当時の文部省が学者たちを結集して編纂した書物。神勅や万世一系が冒頭で強調され、共産主義や無政府主義、民主主義や自由主義も国体にそぐわないものとした。この内容と思想を学生や生徒に教育するために、教員採用試験にも多く採用され、昭和16年3月1日に公布された国民学校令により尋常小学校は国民学校として再編成された。
 
 国民学校では、子どもたちには自分たちの国を守るために戦うこと、戦地で働く人々のために倹約に努め、銃後の守りを整えることといった、国家総動員精神での戦時体制を担う国民を作るという教育方針を強化していきました。国民学校令第一条には、『國民學校󠄁ハ皇國ノ道󠄁ニ則リテ初等普通󠄁敎育ヲ施シ國民ノ基礎的󠄁鍊成ヲ爲スヲ以テ目的󠄁トス』とあり、戦時体制下にあっては学校が軍の予備校としての役割も果たすことになりました。
例えば、子どもたちが楽しみにしている遠足行事は、『(大明国民学校)昭和16年10月31日心身鍛錬を目標トセル秋季遠足ヲ行フ』『(大明国民学校)昭和18年10月25日軍事訓練目的の遠足実施』というように心身鍛錬や軍事訓練の目的のためと明記されるようになりました。
さらには軍の予備校としての役割を果たすため『(鏡中條国民学校)2月3日雪中行軍雪合戦ヲ行フ』『(飯野国民学校)昭和19年8月22日酷暑行軍訓練行フ』『(大明国民学校)昭和20年1月20日耐寒心身鍛錬ノタメ少年団全員増穂南湖方面に行軍ヲ行フ』といった行事も行われています。他にも、『(大明小学校)昭和18年10月22日空襲避難訓練』『(大明国民学校)昭和19年5月18日空襲時における登下校の避難訓練実施』などが行われるようになり、空襲が身近にある中での学校生活を感じさせられます。
16_20250708110701 1641 ←「飯野国民学校日誌昭和16年4月1日「記事:本日ヨリ飯野国民学校ト改称ス」
 授業では新たに武道も取り入れられ、男子には学校教練において木製の銃型を使った訓練、女子には薙刀の訓練が取り入れられました。昭和19年4月17.18日の飯野国民学校日誌には「職員の薙刀講習」の記述が見られます。そのほかの武道では、『(大明国民学校)昭和18年1月30日銃剣道の耐寒練成会』『(大明国民学校)昭和19年9月7日ヨリ三日間相撲道講習会』などの記述もあります。

1929 117 ←飯野国民学校日誌昭和19年4月17日「職員出張:小笠原国民学校内薙刀講習へ 宿直記事:青年学校生銃剣道修練」
Dsc_1411 ←南アルプス市ふるさと文化伝承館テーマ展「ぼこんとうとせんそう」での木銃・薙刀展示状況
P6192876 ←木製薙刀(長さ183㎝)(南アルプス市教育委員会文化財課蔵):薙刀の訓練に使う木製の薙刀。昭和16年の国民学校令台12条によって女児に薙刀の授業が課された。女子武道として、体力向上、精神力倍増等の目的で授業に採用された。展示品は女学校か高等小学校用の長さ。
 木銃(長さ167㎝)(南アルプス市教育委員会文化財課蔵):銃剣術という武道の訓練で使用するもの。銃剣術とは、近接戦闘で相手を突き刺す武器を操るための訓練として生まれた武道。実戦では歩兵銃に短剣をつけて戦う。子どもたちに兵隊になるための訓練を行う学校教練で使用された。
 
 上記のような流れで軍の予備校としての役割をもたされてしまった学校の様子を、次回からも国民学校日誌に記載された内容から読み解いていきたいと思います。

 

2025年7月 1日 (火)

国策紙芝居によるプロパガンダ

こんにちは。
 今日も開催中のテーマ展「ぼこんとうとせんそう」より資料をご紹介いたします。
Dsc_1408 Dsc_1409 ←南アルプス市ふるさと文化伝承館テーマ展「ぼこんとうとせんそう」より 2025年7月1日撮影
南アルプス市教育委員会文化財課では、アジア太平洋戦争中に使用された紙芝居6点と、これらを読み聞かせるために使用された紙芝居の枠も展示しております。
 国策紙芝居は、戦時下に許された数少ない娯楽で、子供たちに限らず大人たちも夢中にさせました。特別な設備を必要とせず、いつでもどこにでも持ち運べる扱いやすさで普及し、国策のための戦中マスメディアとして有効に利用されたのです。
 南アルプス市では、三恵小学校(現若草小に統合)の郷土資料室に残されていた、7点の紙芝居と紙芝居を読み聞かせる際に使用した木製の枠を収蔵しています。そのうち、戦時体制下での国民の模範的意識や行動を示したりや戦意高揚を目的とする内容のもの6点を展示しています(展示していない1点は「小さな灯明」という作品です)。日本教育紙芝居協会が戦争に協力する国民教化を目的とした紙芝居を盛んに制作し、それを国が買い上げて全国に配布しました。
1_20250701140101 ←「あかるい門出」表紙 昭和16年発行
1_20250701140102 15_20250701140101 ←「軍神の母」表紙他 昭和17年発行
1_20250701140201 ←「家」表紙 昭和18年発行
 展示資料はいづれもアジア太平洋戦争中の昭和16年から18年の発行で、全滅を玉砕・戦死者を軍神と呼び変えて表現しています。本来は子どもの心を守るべき読み聞かせの題材を、戦争の悲惨さを覆い隠してさらなる戦意高揚に利用することで、子供にまで最後の一人になっても戦うことを強要したわけです。国は迫る本土決戦を見据えていたのでしょう。
 ここで、6点の国策紙芝居の内容をそれぞれざっと一言で申しますと、「あかるい門出」は傷痍軍人の再起を「軍神の母」は軍神(真珠湾攻撃九軍神上田定)の母の慎ましさとあるべき姿を「家」は当時の理想的家族の在り方を「中澤挺身隊」「玉砕・軍神部隊」「爪文字」はそれぞれの戦場で敢闘し玉砕してゆく軍人たちの様子と銃後の支援の重要性を説いています。
1_20250701140202 ←「中沢挺身隊(ガダルカナル島血戦記)」表紙 昭和18年発行
1_20250701140203 ←「玉砕軍神部隊」表紙 昭和18年発行
1_20250701140204 ←「爪文字」表紙 昭和18年発行
 一緒に展示作業をしていた身近なスタッフたちとこれらの紙芝居を読んだ感想は、「良民の情緒を揺さぶるように計算されたなんて卑劣な物語だ」というもので、怒りを覚えるほどでした。今を生きている私たちには到底受け入れられる内容ではありません。自由な創作的活動をすべて取り上げられてしまった当時の一流クリエイターたちが、発注元である戦時体制下の国の意思に忠実に答えようとすると、このように優秀なプロパガンダ作品が生み出されてしまうのだということに恐怖を感じました。
 この紙芝居を観た当時の人々がすべての内容をすんなりと受け入れていたとは考えにくいのですが、世相に感化されて熱狂した人、心にある様々な思いを打ち消して受け入れた人もあったでしょう。
 
 何度かこの紙芝居を読んで公開する機会を持てないものかと検討したのですが、読み手も聞き手も疲弊してしまうようなすごい内容です。戦争プロパガンダとしてとてもよくできた作品ですので、たとえ時代背景などの解説付きであったとしても、惹き込まれる人がいるのではないかと考え、恐ろしくて読めません。
 展示してある国策紙芝居のもう少し詳しい内容をお知りになりたい方は、当館テーマ展にいらして展示キャプションや複製品をじっくり見て解説員の話を聞いてただくか、文献としては「『国策紙芝居から見る日本の戦争』神奈川大学日本常民文化研究所非文字資料研究センター 勉誠出版株式会社 2018年2月28日」等をお読みになるとよいと思います。

Dsc_1410 ←テーマ展展示の国策紙芝居キャプションの一部

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