国策紙芝居によるプロパガンダ
こんにちは。
今日も開催中のテーマ展「ぼこんとうとせんそう」より資料をご紹介いたします。
南アルプス市教育委員会文化財課では、アジア太平洋戦争中に使用された紙芝居6点と、これらを読み聞かせるために使用された紙芝居の枠も展示しております。
国策紙芝居は、戦時下に許された数少ない娯楽で、子供たちに限らず大人たちも夢中にさせました。特別な設備を必要とせず、いつでもどこにでも持ち運べる扱いやすさで普及し、国策のための戦中マスメディアとして有効に利用されたのです。
南アルプス市では、三恵小学校(現若草小に統合)の郷土資料室に残されていた、7点の紙芝居と紙芝居を読み聞かせる際に使用した木製の枠を収蔵しています。そのうち、戦時体制下での国民の模範的意識や行動を示したりや戦意高揚を目的とする内容のもの6点を展示しています(展示していない1点は「小さな灯明」という作品です)。日本教育紙芝居協会が戦争に協力する国民教化を目的とした紙芝居を盛んに制作し、それを国が買い上げて全国に配布しました。
展示資料はいづれもアジア太平洋戦争中の昭和16年から18年の発行で、全滅を玉砕・戦死者を軍神と呼び変えて表現しています。本来は子どもの心を守るべき読み聞かせの題材を、戦争の悲惨さを覆い隠してさらなる戦意高揚に利用することで、子供にまで最後の一人になっても戦うことを強要したわけです。国は迫る本土決戦を見据えていたのでしょう。
ここで、6点の国策紙芝居の内容をそれぞれざっと一言で申しますと、「あかるい門出」は傷痍軍人の再起を「軍神の母」は軍神(真珠湾攻撃九軍神上田定)の母の慎ましさとあるべき姿を「家」は当時の理想的家族の在り方を「中澤挺身隊」「玉砕・軍神部隊」「爪文字」はそれぞれの戦場で敢闘し玉砕してゆく軍人たちの様子と銃後の支援の重要性を説いています。
一緒に展示作業をしていた身近なスタッフたちとこれらの紙芝居を読んだ感想は、「良民の情緒を揺さぶるように計算されたなんて卑劣な物語だ」というもので、怒りを覚えるほどでした。今を生きている私たちには到底受け入れられる内容ではありません。自由な創作的活動をすべて取り上げられてしまった当時の一流クリエイターたちが、発注元である戦時体制下の国の意思に忠実に答えようとすると、このように優秀なプロパガンダ作品が生み出されてしまうのだということに恐怖を感じました。
この紙芝居を観た当時の人々がすべての内容をすんなりと受け入れていたとは考えにくいのですが、世相に感化されて熱狂した人、心にある様々な思いを打ち消して受け入れた人もあったでしょう。
何度かこの紙芝居を読んで公開する機会を持てないものかと検討したのですが、読み手も聞き手も疲弊してしまうようなすごい内容です。戦争プロパガンダとしてとてもよくできた作品ですので、たとえ時代背景などの解説付きであったとしても、惹き込まれる人がいるのではないかと考え、恐ろしくて読めません。
展示してある国策紙芝居のもう少し詳しい内容をお知りになりたい方は、当館テーマ展にいらして展示キャプションや複製品をじっくり見て解説員の話を聞いてただくか、文献としては「『国策紙芝居から見る日本の戦争』神奈川大学日本常民文化研究所非文字資料研究センター 勉誠出版株式会社 2018年2月28日」等をお読みになるとよいと思います。
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